2006年9月09日(土)〜2006年11月12日(日)

はじめてみよう 古文書入門

「文字・活字文化の日」関連展示

 おうちから見つかった古文書や、博物館に展示されているくずし字で書かれた古典籍などを見た時に、「読めたらなぁ…」と思ったことはありませんか?これまでまったく古文書などにふれたことがなかったけれど、ひとつトライしてみようかな、というかたをお誘いする、古文書・くずし字入門の展示です。

会期
2006年9月09日(土)〜2006年11月12日(日)
料金
入場無料
展示解説
9月16日(土)・11月11日(土)
古文書講座
「これから古文書を読んでみようという方へ ~古文書・くずし字入門“前”講座~」
①9月30日(土)・②10月14日(土)・③11月4日(土) ※3回連続講座

古文書とは

 古文書(「こもんじょ」と読みます。「こぶんしょ」という言い方はしません)とは通常、「AからBへ意思伝達するために書かれ、その時代における役割を終えたもの」と定義されます。素材は紙が一般的ですが、板や布に書かれていても石に刻まれていても、また洋紙にペンで書かれていても、前記の条件を満たすものなら“古文書”です。他方、紙に書かれた古い文であっても、自分の備忘のために書かれた日記や記録類、不特定多数を対象とした著述(文学作品)や編纂物は、古文書の範疇に入れられません。

けれど、一般的に「古文書を読んでみたい」などという場合、“和紙にくずし字で書かれた文章や本すべて”をイメージすることが多いようです。そこで、ここでは、昔の人の歴史や文化を伝える文字史料を“古文書”とまとめて呼んでしまうこととします。多くはくずし字で書かれていて少々とっつきにくい古文書ですが、まったく未知の言語ではありません。ともあれ、まずは読んでみましょう。


数多く残る証文類

これも古文書 高札(木の板に書いて掲げたお触れ)




商家の帳面

今も読み継がれる古典 『源氏物語』




<古文書が読めるようになるには>

一、筆写する。
今の字に直して、一字ずつ書き写します。読めない字はくずし字の形をまねて(筆の入り方や、偏へん・旁つくりを意識してたどりましょう)書いてみます。目で追っているだけよりも、格段に力がつきます。

一、推理する。
読めない字が出てきたら、字のかたちばかりにとらわれすぎず、文章や言葉のかたまりで考えます。前後の文脈などから「ここはこういう意味の字がくるはずだ」などと推理して。

一、音読する。
声に出して読んでみましょう。くりかえし、何度も。特有の言い回しや、ひっくり返って読むなどの読み方に慣れ、古文書のリズムになじむことで、次にくるべき言葉の見当がつきやすくなります。

一、辞書を引く。
字がわかっても、意味がわからないままでは読めたとはいえません(逆に、たとえいくつかわからない字があっても、意味がとれればその古文書は“読めた”ことになるのです)し、第一面白くありません。面倒がらず、辞書を引きましょう。

 残念ながら、すぐにすらすら古文書が読めるようになる魔法のような方法はありません。けれど、こつこつとがんばって一つの古文書を読みきった時、それを書いたむかしの人と心が通じ合ったような、不思議な喜びがあなたを満たすことでしょう。その瞬間をぜひ、味わってください。

古文書を読んでみよう

<古文書を読むとは?>
古文書を読むには次の3つの段階を踏む必要があります。

①くずし字を判読する…まずは何という字が書かれているか、一字一字、今の文字に書き直します。

②読み下す…多くの古文書は漢文のような書かれ方をしており、表記と読み方(声に出して読む場合)が一致しないことがあります。字の順をひっくり返したり、言葉を補ったりして読みます。

③文意をとる…特有の言い回しや、言葉そのものが、現代とは大きく違っていることがままあります。わからない言葉は辞書で調べるなどして、書いた人が何を伝えようとしたのかを理解します。

ここで初めて「この古文書が読めた」といえるのです。

<古文書解読ツール>
※必須 
・筆記用具 
・たて書きの原稿用紙
・くずし字字典(閲覧室などにも備えられていますが、独占するのは迷惑になるし、書き込みができないので自分のものを持っていたほうがよいでしょう)
・年号対照表(くずし字辞典に掲載されていることも)
・国語辞典、漢和辞典(簡便なものでは役に立たないことも。『日本国語大辞典』や『大漢和辞典』などは非常に有益ながら個人で備えるのは大変。閲覧室や図書館のものを利用しましょう)


※あると便利なもの
・ルーペ
・メジャー類(金属製でないもの)
・文鎮(面取りがしてあるもの)
・電卓(度量衡の計算などに使用)




<古文書を取り扱うときの心得>

・手をきれいに洗うべし。
手の脂や汚れはしみになるばかりでなく、害虫やカビを呼び寄せるもととなってしまいます。もちろん洗った手はよく拭いて水気をとりましょう。

・筆記用具はえんぴつを使うべし。
ボールペンや万年筆などのインク類は、汚損してしまった時にとれないので使いません。

・傷つける恐れのあるものは遠ざけるべし。
腕時計や指輪、大きなペンダント、カフリンクスなど、ひっかけて破損させるおそれのあるアクセサリー類は外します。

・古文書のそばで、飲食・喫煙するべからず。
 永い時を経て今日まで伝わってきた、かけがえのない古文書。愛情と敬意をもって接しましょう。




かなを読もう

 村方文書などの公用文はほとんど漢字で書かれますが、江戸時代の庶民が日常で書きとめたものや、文学作品などにはかなが多く使われています。この、漢字なのか平仮名なのか判別に苦しむような独特のかなを変体仮名といいます。現在の平仮名は1音に1字のみですが、変体仮名の場合は元の漢字(字母)が複数あるため、覚えるのに少々骨が折れますが、かなが読めると江戸時代の本がぐっと親しみやすいものになります。ぜひチャレンジしてみてください。

<小倉百人一首を読んでみよう>
何種類も本があり、それぞれ違うかなが使われていて、また書かれている歌はみなさんよくご存知のものですから、かなをたくさん覚える教科書としてはぴったりです。実際、江戸時代にも、手習いや教養の教科書として愛用されていました。一文字ずつ字典で確認して、字母は何なのか、どういう形にくずされるのか、おぼえてゆきましょう

『錦百人一首あづま織』(41-7) 勝川春亭画 安永4(1775)年


花 の 色 は う つ り に け り な 
  乃   八 宇 徒 利 尓 个 利 奈
い た つ ら に
以 多 徒 良 仁
わ か 身 よ に ふ る な か め せ
王 可   与 仁 不 留 奈 可 女 世
し ま に
之 末 尓

ここでは小野小町の歌を例にとりました。かなの下に赤字で添えたものがもとの漢字(字母)です。




<有名な古典を読んでみよう>
よく知られた古典文学作品も、かなの習得にむいています。もし読めない字が出てきても、活字印刷された本がたくさん出回っていますから、何と読むのかすぐに確認することができます。人によっては文を暗誦しているかもしれませんね。


『絵本徒然草』(1-148)
西川祐信画元文3(1740)年刊

友とするにわろきもの…




江戸時代の手習い

 江戸時代は「文書主義の時代」との言い方があるほど、幕府からのおふれやちょっとした契約ごと、商売のやりとりなど、すべてにおいて書類(文字)をとおしてやりとりがされていました。よって文字の習得は庶民にとっても重要なことでした。

 人々が一般的に読み書きに使用していたのは「お家流(青蓮院流)」といわれる草書体のくずし字でした。はじめはかなの「いろは」に始まり、その後は師匠からいただく手書きのお手本や、「往来物」と呼ばれる初等教育用の教科書などを手本に、繰り返し繰り返し字を書き、また音読し、基本的な文字の読み書きをおぼえてゆきました。


『手習制訓壁書』(56-イ14-36)享和3(1803)年刊




古文書の魅力

 美しい工芸品や迫力ある発掘の出土品などとくらべると、古文書はちょっと地味な存在です。しかし文字で書かれている古文書は、当時の出来事や人の気持ちを直截に伝えます。ひとつひとつ文字を読み進めてゆく作業の向こうに、はるかに時を経た昔の人々の営みや文化が目の前に広がるような楽しみが待っています。書かれた時の空気や、書いた人の息遣いまでも感じられそうな、タイムカプセルのような古文書。それをそっと開ける楽しみは、ほかではちょっと味わえません。


<その時事件が…>
 右は武家伝奏(ぶけてんそう)(朝廷と幕府の間を取り次ぐ役職)を務める公家の柳原資廉(やなぎはらすけかど)が、勅使として江戸城へ赴いた時の日記、『関東下向道中記』の一部です。日付は元禄十四年三月十四日、いわゆる「殿中刃傷事件」の起こった時の日記です。その時の緊迫した様子や、資廉の“大人の対応”がうかがえます




史料王国日本


 先人たちの歴史や精神文化を今に伝える貴重な手がかりである古文書などの文字史料。幸い日本は、こうした史料が極めて多く伝わっている恵まれた国です。お家に古文書が残っているという方もおありでしょう。また郷土資料館や文書館など、史料を保存公開している場所も全国にたくさんあります。もちろん岩瀬文庫もそのひとつです。それを読まない手はありません。最初はくずし字に少し戸惑うかもしれませんが、まずは読みはじめてみませんか?


本企画展図録のご紹介

A4 14ページ 110g 300円
完売いたしました。