2006年6月24日(土)〜2006年9月03日(日)

江戸の版本

~その出版文化と技術~

商業出版が始まり、かつてない大量の本が生み出されたのは江戸時代です。
それまでもっぱら写本(手書きの本)によっておもに上流階層の人々に受け継がれてきた文学・歴史・芸能・学問などが、出版物の普及によって一気にその担い手を広げました。
庶民への文化の開放の鍵となった印刷出版された書物-版本。
そのあらましをご紹介します。

会期
2006年6月24日(土)〜2006年9月03日(日)
料金
入場無料
展示解説
7月8日(土)・8月5日(土)
特別講座
8月20日(日)
「漱石たちの手紙~岩瀬文庫の新資料発見!!~」
神谷勝広氏(同志社大学教授)

◆印刷から出版へ

 日本における印刷の歴史は古く、年代が確認できる最古のものはなんと今から千二百年以上も前、神護景雲4(770)年の印刷です。しかし永らく本の印刷は、おもに大寺院が仏典などを限られた人に配布するために刷るもので、今日的な意味合いの出版とは言い難いものでした。
16世紀末、活字印刷の技術が日本へもたらされると、それまでの印刷をめぐる状況が一変しました。

<展示資料>
『皇朝類苑』(42-15)・『礼記』(135-67)・『万葉集』(75-2)・『〈嵯峨本〉伊勢物語』(76-12)・『太平記』古活字版(127-59)・『太平記』整版(10-13)


『万葉集』

『〈嵯峨本〉伊勢物語』




◆印刷技術の発展

 整版による印刷は、まず原稿を薄い紙に清書し(版下といいます)、それを裏返して板に張り、文字や絵の線を残してまわりを彫り取ります。こうしてできた版木に墨を塗り、紙をあて、ばれんでこすって写し取るのです。やがてそれぞれの工程は分業化され、専門の職人によって技術が磨かれてゆき、美しい文字や緻密な絵が印刷できるようになりました。

<展示資料>
『五常名義絵抄』稿本(36-64)・版本(16-71)・『うすゆき物語』(134-4)・『絵本難問桟』(83-66)・『富士山十二景』(86-39)・『役者似顔』(49-63)


『絵本難問桟』

『役者似顔』




◆商業出版はじまる

 寛永(1624年~)頃、京において民間の書肆(しょし)(本屋)が現れたのが、日本の商業出版のはじまりです。次いで承応(1652年~)頃には江戸、少しおくれて大坂にも広がって行き、この三都を中心に出版が盛んになりました。当時の買い物案内や書籍目録からは、わずかな期間に数多の書肆が誕生し、さまざまな本が出版されるようになり、庶民の生業としての出版業がめざましく育っていったさまがうかがえます。

<展示資料>
『京羽二重』(101-45)・『江戸買物独案内』(102-23)・『商人買物独案内』(38-99)・『増益書籍目録』(102-12)・『江戸名所図会』(35-61)・『絵本柳樽』(104-32)


『増益蔵書目録』

『絵本柳樽』




◆広がる文化 広げる書物

 江戸時代になって社会構造が変化すると、文化の担い手が民衆にまで広がりました。泰平の世情ともあいまって、人々はさまざまな文化を生み出します。それを支えたのが出版の隆盛です。需要に応えて多数の関連書物が刊行され、文化の発展にさらに拍車をかけました。

<展示資料>
『曽我扇八景』(13-112)・『劇場一観顕微鏡』(73-136)・『おくのほそ道』(103-55)・『俳風柳樽』(27-1)・『狂歌才蔵集』(26-79)・『古今茶湯大全』(15-109)・『秘伝茶道要録』(4-28)・『茶湯早指南』(9-ニ57)・『訓蒙図彙』(136-82)・『物類品隲』(8-98)・『三都一朝』(27-59)・『道中膝栗毛』(9-53)


『おくのほそ道』

『茶湯早指南』




◆小説のうつりかわり

 江戸時代以降の文学は、それまでの時代と違い、そのほとんどが出版物であるという点に特徴があります。出版という商業ベースに乗ることで、読者=客が意識されるようになったのです。“読者のニーズ”は著述業つまり作家の登場をうながし、また掲載される文字量も右肩上がりに増大させ、文学の質も変化させてゆきました。

ここに江戸時代初期からの小説のジャンルを並べてみました。時代が下るにつれ、掲載される情報量が多くなり、1ページあたりの文字数が増えて字が小さくなっている様子が見えます(1文字あたりのコストが下がってゆくということです)。この現象は、後戻りすることなく、現代まで続いています。

<展示資料>
『ふんしやう』(111-104)・『東海道名所記』(10-174)・『日本永代蔵』(63-44)・『雨月物語』(76-93)・『松浦佐用媛石魂録』(84-23)・『さるかに合戦』(107-52)・『文福茶釜』(107-59)・『〈新版〉なぞづくし』(109-77)・『〈新版〉風流鱗魚退治』(107-53)・『三升増鱗祖』(107-60)・『雑談雨夜質蔵』(104-49)


『松浦佐用媛石魂録』

『雑談雨夜質蔵』


本企画展図録のご紹介

A4 12ページ 110g 300円
完売いたしました。