西尾八景

にしおはっけい48-89木版多色刷 6枚 江戸時代末頃

 名所絵や風俗絵を得意とした尾張の絵師・小田切春江(1810~1888)が、西尾の8つの名勝を叙情豊かに描いた錦絵です。現在は「須田先盆之夕景」「蟲送之図」「伊文山の社」「祇園会御旅所」「寄住之松」「八面山の春興」の6図のみ(うち2枚は未完成)が残されています。左枠外に「辻板」とあることから、西尾の須田町の藩御用達商・鍋屋(辻利八)により版行されたものとわかります。辻家の記録(『諸道具控』ほか)によると、弘化3(1846)年に15両余り(うち画代に1両3分)をかけて団扇絵300本、摺画300枚を制作販売したといいます。

 写真は眺望絶佳の行楽地、「八面山の春興」。山頂から遠眼鏡で三河湾の帆かけ船を眺め、扇を手にして踊り、酒宴の席では俳句をひねり、子供を連れて山菜摘み、と思い思いの春の楽しみが描かれています。現在は桜の名所として賑わう八ツ面山も、かつてはこの様に松や杉が目立つ姿であったようです。中腹には荒川天王社(現在の八面町久麻久神社)も見えます。山頂近くに点在する穴は雲母の採掘坑でしょうか。

 近代以前の西尾の景観や風俗を視覚的に描いた数少ない資料です。