三都一朝

さんといっちょう27-59版本 2冊 嘉永7(1854)年刊

水鳩台

 夏の早朝、気温が上がる前の爽やかなひとときに、朝顔の瑞々しい花はとてもよく似合います。
 朝顔は奈良時代に、種を薬用にするため中国からもたらされたと伝えられ、古くから親しまれてきた植物です。園芸栽培は江戸時代の文化年間頃(1800年代初頭)から盛んになりました。

 本書は嘉永7(1854)年に、江戸は入谷の朝顔師・成田屋留次郎によって著された変化咲き朝顔の木版図譜です。この頃、一見とても朝顔には見えないような珍品開発がブームになりました。本書にも江戸・大阪・京の三都の朝顔愛好家による名品が、田崎早雲の美しい多色刷り絵で掲載されています。花の形はゴージャスな牡丹咲きのものが、色は茶色や鼠色などの渋いものが珍重されたといいます。


紺絞台・煤竹車




 表紙見返しの余白部分は、元の持ち主の手による、朝顔に関する文献名や朝顔を詠んだ句などの書き込みでぎっしり埋められています。きっとこの本の元の持ち主も、熱烈な朝顔愛好家だったのでしょう。


紅三段車

 変化咲きの品種改良には、遺伝上の性質を利用してうまくかけ合わせなければなりません。メンデルの法則が発見されるずっと前から、日本人は経験則によりこのことを知っていて、ユニークで豊かな趣味の世界を展開していたのでした。




薄黄車・紅糸


 図の上方に書かれた文は、その朝顔の様子を表現する名。「葉の色+葉の形+花の色+花の形(咲き方)」の順で命名される。