小藤太物語

ことうたものがたり辰-561巻 23.2×684cm 室町時代


 この小さくて愛らしい絵巻は、主人公である雀の小藤太夫婦が、突然子供を亡くしたことで世のはかなさを知り、出家(しゅっけ)するという物語です。前半には様々な鳥たちからのお悔(く)やみの和歌(わか)と夫妻からの返歌(へんか)のやり取りが、後半には僧となった小藤太が諸国の寺社を巡って子供の菩提(ぼだい)を弔い、極楽往生(ごくらくおうじょう)を遂げるようすが、しみじみとした味わいの挿し絵とともにえがかれています。このような発心遁世(ほっしんとんせ)談は、お伽草子の重要なテーマの一つで、読者に世の無常を説き、仏への信仰をおこさせるねらいがあります。同じ物語を描いた絵巻は慶応義塾図書館など数例があります。



 表紙には金襴(きんらん)、見返しには金箔(きんぱく)が用いられ、本紙(ほんし)の裏には銀箔が散らされています。室町時代から江戸時代にかけて、こうした手書きによる色彩豊かな挿絵と美しい装丁の「奈良絵本(ならえほん)」「絵巻物」と呼ばれる作品が多く作られました。物語の内容は、神仏への信仰を説くものや庶民の立身出世潭(りっしんしゅっせたん)、動物や妖怪が主人公の話など多岐にわたり、「一寸法師(いっすんぼうし)」や「鉢(はち)かづき」など、現代でも昔ばなしとして親しまれているものもあります。


僧となって諸国をめぐる小藤太


 岩瀬文庫は、この「奈良絵本」「絵巻物」を多く所蔵していることでも知られています。2007年8月11日(土)から、これを一堂に会した企画展「絵ものがたりファンタジア」を開催しました。また、25日(土)・26日(日)には岩瀬文庫を会場に、「奈良絵本・絵巻国際会議」が開催され、この分野の最新の研究成果が発表されました。