2019年2月16日(土)〜2019年4月14日(日)

こんな本があった!16

~岩瀬文庫平成悉皆調査中間報告16~

 平成12年度から継続している岩瀬文庫の全資料調査の過程で出逢った珍しい本や新しい発見などをいち早くご紹介する、年度末恒例展示の第16弾。今年も続々と珍本奇籍が登場します。ヴァラエティに富んだ古書の魅力をご堪能ください。

会期
2019年2月16日(土)〜2019年4月14日(日)
展示解説
2月23日(土) 午後1時30分~
2階企画展示室
特別講座
3月24日(日)午後2時~
「今年度の調査からわかったこと Vol.16」
講師:塩村耕氏(名古屋大学教授/岩瀬文庫資料調査会会長)
会場:岩瀬文庫地階研修ホール
連続講座
3月10日(日)午後2時~
第2回「なぜ、三河か?~三河国の原像を探る~」
講師:原 秀三郎 氏(静岡大学名誉教授)
会場:岩瀬文庫地階研修ホール
定員:70名程度(定員を超えた場合はモニター聴講)
※予約・料金は不要です。

はじめに

 「こんな本があった!」展の第16回目は、番外編の番外編として、これまで「こんな本」に取り上げたかったものの、次から次へと「こんな本」が出現するために、泣く泣く展示候補から割愛した本たちを集めました。
 さて、われわれにとって、どんな本が「こんな本」なのか、あらためて考えてみると、何らかの意味で昔の日常について教えてくれる本ということになります。なぜならば、通常、人はあたりまえの日常について、ことさらに記述することがなく、その結果、わからなくなってしまった過去の日常があまりにも多くあります。そんな中で、稀に日常をうかがい知る資料が現れると、「こんな本があった!」となります。重複書がほとんどなく、したがって珍しい資料の多い岩瀬文庫に、「こんな本」は妙にたくさんあるのでした。
 なお、平成12年6月に開始した岩瀬文庫平成悉皆調査は、ほぼ終わり、現在は落穂拾い的な作業を細々と続けているところです。「四部叢刊」という、中華民国時代になってから上海で刊行された、貴重書漢籍の複製本の一大叢書があります。かつては蔵書家が競って備えようとしたもので、岩瀬弥助の最晩年に収書されました。現在では歴史的な役割をほとんど終えた資料ですが、それでも書誌データベースには載せる必要があり、漢籍の山と格闘しています。それも遠からず終わることでしょう。




平成31年2月             悉皆調査責任者
                   名古屋大学文学研究科(日本文学)
                   塩村 耕(しおむら こう)




Ⅰ.江戸の日常を知る古書

たとえば、朝、何を食べ、どうやって洗顔し、どんな衣服を着て出かけたか、記述する人がほとんどいないように、日常を知る古書は少ないものです。




[1]『徳川盛世録』9函81号
 徳川時代の幕府関係の諸制度や武家の慣習、年中行事などを懇切に解説した基本資料。
[2]『調味故実付枝鳥事』40函イ125号
 室町時代の料理の伝書。
[3]『遊女芸者名前控』14函46号
 京都を代表する遊所だった祇園の茶屋に抱えられる遊女や芸妓が、奉公に出る際の証文の控え帳。
[4]『〈海川諸魚〉掌中市鑑』3函16号
 大阪の市場に出回った魚介類の図譜。
[参考]『〈魚貝〉能毒品物図考』31函37号
 上記の改題本。
[5]『後昔安全録』37函62号
 安政2年(1855)の江戸大地震、および文久3年(1863)にかけてのコロリや麻疹の流行についての見聞録。
[6]『絵本不尽泉』67函66号
 さまざまな上戸の醜態を戯文と絵で描写する。
[7]『洗湯手引草』34函79号
 洗湯とは銭湯のこと。江戸の銭湯についての基本資料。
[参考]『洗湯手引草』85函2号
 上記の増補訂正版。


『徳川盛世録』(9-81)

『絵本不尽泉』(67-66)




『調味故実付枝鳥事』(40-イ125)




Ⅱ.三河と尾張の古書

文庫創設者の岩瀬弥助は、名古屋の古書店の上顧客だったために、三河や尾張関係の古書に珍しいものが多く含まれています。

[8]『参河国国史旧記抜萃略図』168函47号
 三河国中の奇談や奇物、奇景を、書物と見聞、実地踏査により、名所図会風にまとめた書。
[9]『伝聞』75函38号
 伝聞した奇談3話を収めた雑記随筆。
[10]『異域同日譚』78函85号
 日本の歴史や伝説、民族などについて、漢籍類に見える類似の話を挙げ、鬼神、仙仏、王侯、文臣、武臣などに部類した類書。
[11]『近藤瓶城翁伝・瓶城翁遺文』82函17号
 三河人の近藤瓶城の嗣子、近藤圭造が編纂刊行した伝記書と遺文集。
[12]『本宮山眺望之記』146函23号
 三河宝飯郡本宮山の頂上よりの眺望について説明した書。
[13]『〈習斎先生〉承俸志』40函ホ125号
 中村習斎(1719~99)は多くの著書のある名古屋の儒学者。尾張藩の御国御用人支配の儒者として召し出されてから死の直前まで、俸禄や藩との種々の文書のやりとり、勤務履歴について、自ら詳細に記録したもの。
[14]『小笠原前山系図』147函93号
 筆者小笠原義邦は幕末明治を生きた旧尾張藩士の下級藩士で無名の人。同家(もと前山を改姓)の系譜に、祖父以来自身までの履歴を詳細に記し、自宅周辺の地図まで収める。


『三河国国史旧記抜萃略図』(168-47)

『伝聞』(75-38)




『本宮山眺望之記』(146-23)

『小笠原前山系図』(147-39)




Ⅲ.地方について知る古書

岩瀬文庫の功績の一つは、中央集権化の進む明治期にあって、封建の記憶となる、地方を知る資料を大量に集め、保存してくれたことです。

[15]『遠江古蹟図会』48函52号
 遠江の地誌。実地踏査を踏まえた詳細な内容で、著者自身による挿絵を載せる。
[16]『洛陽名跡こまさらひ』40函ハ128号
 洛中洛外の主な地名や神社仏閣、名所旧跡をことこまかに集めた手製の地誌。
[17]『伊勢雀』141函18号
 伊勢の地誌で、神宮の由来や諸制度、周辺の名所や習俗などを平易に説く。
[18]『諸国名所画譜初編』102函66号
 山城国嵐山、摂津国桜の宮、武蔵国隅田川以下、全国の名所を一国一景で描いた絵本。
[19]『風流江戸雑話懐反古』37函64号
 江戸周辺の名所について、俳文風に解説するという、凝った作りの地誌。
[20]『増補京めくり』36函56号
 京の名所案内記、貝原益軒著『京城勝覧』に基づき、京の漢学者、岩垣龍渓(1741~1808)が増補改訂を加えた書に、養嗣子の岩垣東園(1774~1849)が独自の見解や増補記事を朱墨により書き入れた書。
[21]『みとものかす』83函39号
 明治13年(1880)6月より7月にかけて行われた、明治天皇の巡幸に供奉した随行員による和文の旅日記。


『遠江古蹟図会』(48-52)

『伊勢雀』(141-18)




『諸国名所画譜初編』(102-66)

『みとものかす』(83-39)




Ⅳ.さまざまな人物を知る書

古書を読む楽しみは、さまざまな興味深い人たちと出会えることです。

[22]『採薬記』17函40号
 京都の本草の家、山本読書室本。亡羊の長男、山本榕室が文政~天保年間、各地に出かけた採薬(本草採集)旅行の記録書。
[23]『玉石まむ筆』57函24号
 諸書よりの抜書を中心とした雑記随筆。
[24]『海南遺稿』54函ロ4号
 伊予松山藩士で漢学者、藤野海南(1826~88)の遺稿集。
[25]『用因抄』18函14号
 貝原篤信(益軒、1630~1714)の自筆本。さまざまな食用植物108種類を菜類・穀類・薬草に分類し、それぞれの栽培方法を実用的に解説した書。
[26]『古老物語』21函20号
 暗影5年(1776)より6年ごろに書かれた随想的随筆の自筆稿本。
[27]『新撰姓氏録』126函62号
 平安時代に成った日本の古代氏族の系譜所。
[参考]『〈訂正〉新撰姓氏録』97函46号
 広島の国学者、橋本稲彦による校訂本。


『採薬記』(17-40)

『玉石まむ筆』(57-24)




『用因抄』(18-14)

『古老物語』(21-20)




Ⅴ.続出する珍奇な古書

岩瀬文庫の珍奇本のタネは尽きないようです。

[28]『上方人物風俗図』49函73号
 作者不詳。京阪の種々の階層・職業層の人物を描いた風俗絵図集。
[29]『明文間見聞』76函67号
 奇談集。著者は伝不詳、江戸に住む64歳の知識人。
[30]『額摩鳥考』32函35号
 京の禁裏御医で本草に詳しい福井棣園(1783~1849)の著書。
[31]『〈実説奇談〉紫陽花著聞』76函112号
 嘉永4年(1851)頃成。江戸および諸国の奇談実録19話を収める。
[32]『希有談』52函219号
 見聞による奇談を録した雑記随筆。著者は京に住む知識人。京の医者で本草学者、水野皓山(1777~1846)による書写本。
[33]『名所山水辺居所人倫支躰』168函84号
 一種の俳諧辞書。元禄期の某俳人が、俳諧や雑俳に用い得るような、故事や伝説にまつわる語彙や、奇異な語彙を分類して書きつけ、下段に注記を施したもの。 


『上方人物風俗図』(49-73)




『額摩鳥考』(32-35)

『〈実説奇談〉紫陽花著聞』(76-112)


本企画展図録のご紹介

A4 24ページ 110g 500円
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