漂流記集

ひょうりゅうきしゅう136-62冊 江戸時代後期 万寿堂編

 本書は、江戸時代に船で外国へ漂流した日本人の話や、日本へ漂着した異国人の話を集めたもの。いわゆる鎖国下の日本人にとっては、どれもたいへん珍奇な話だったでしょうが、中にはこんな不思議な姿の漂着船の記事もあります。



 流れ着いたのは常陸国(ひたちのくに)(現茨城県)の原舎ヶ浜(はらしゃがはま)。若く身なりのよい美女が乗っていたが、言葉は通じず、どこの国の人かは不明。白木の箱を大切そうに抱え、人を寄せ付けようとしない。船の中には謎の文字があった―とあります。

「小笠原越中守知行所着舟/常陸国舎ヶ浜と申所へ/図之如くの異舟漂着致候/年頃十八九か二十才/くらいに相見へ少し/青白き顔色にて/眉毛赤黒く髪も同断/歯は至て白く唇紅ニ/手は少しぶとうなれと/つまはつれきれい/風俗至て宜しく/髪乱て長し/図のことくの/箱にいか成大切/の品の由ニ候て/人寄セ不申候/音聲殊の/外かんば/しり/ものいゝ/不方/姿はじん/ぜうニして/器量至て/よろしく/日本ニテも/容顔美/麗といふ/方にて/彼国の/生れとも/いふべきか」「一 鋳物弐枚至て和らかな物/一 喰物菓子とも見へ亦肉ニ□/煉りたる物有之/喰物何といふ/事を不知/一 茶碗様の/もの一ツ/美敷もよふ/有之石とも/見へ/一 火鉢らしき物壱ツ/□明ホリ有鉄とも見/亦ヤキモノ共見/一 船中改候所如斯の文字有之/右之通訴出申候」





部分図。 船は高さ3.3m、幅5.4m、本体は紫檀と鉄製で、ガラスや水晶の窓が付いている。女は18~20歳ほど。顔色は青白く、眉毛や髪は赤い。左は船内に書かれていた文字。




この事件は『南総里見八犬伝(なんそうさとみはっけんでん)』で有名な戯作者・曲亭馬琴(きょくていばきん)の『兎園小説(とえんしょうせつ)』でも、謎の「虚ろ(うつろ)舟」として取り上げられ、現代のオカルトファンの間でも「江戸時代のUFO」として知られています。