〈岩瀬文庫資料に見る!〉江戸時代の園芸趣味
江戸時代の日本は世界に冠たる園芸王国でした。
現代のガーデニングブームに勝るとも劣らぬ当時の人々の園芸趣味の様子を
岩瀬文庫の蔵書をとおしてご紹介します。
- 会期
- 2009年4月04日(土)〜2009年6月14日(日)
- 料金
- 入場無料
- 展示解説
- 5月30日(土)
- 古文書講座
- 6月13日(日) 江戸時代のガーデニング本を読んでみよう
- 特別連続講座
- 史料から歴史の謎を読み解く
- 学術創成費「目録学の構築と古典学の再生」研究グループ共催
- 4月11日(土)第1回「『善光寺縁起』のはじまり―善光寺創建の謎を解く―」
- 田島公氏(東京大学史料編纂所教授)
園芸ブームの幕開け
江戸時代に身分の上下を問わず愛好された園芸趣味、そのきっかけとなったのは椿の栽培でした。日本原産の花木で、古くから栽培されていた椿ですが、寛永の頃になって爆発的にその愛好熱が高まったのです。要因は、家康・秀忠の将軍父子が椿を好み、江戸城に様々な品種の椿を蒐めたことによります。以来、牡丹、躑躅など、時とともに流行の植物の変遷はあれど、大名から下級武士に至るまで、庭に花木を植えて愛でるのが武士のたしなみのひとつとなりました。おりしも新興都市・江戸が整備されてゆく過程と歩みを一にして、大名屋敷をはじめ、寺院や通りの並木などに植栽が加えられ、江戸は一気に庭園都市の様相を呈するようになりました。
<展示資料>
『本草図説』(45-11) 195冊・『深見菩薩草名寄』(25-119) 2冊・『花卉百種』(卯-19) 1冊・『躑躅花譜』(125-50) 1冊・『古歌仙紅葉集』(160-83) 1冊・『怡顔斎桜品』(1-22) 1冊・『桜百種』(127-13) 1冊・『梅品』(122-12) 2冊・『韵勝園梅譜』(109-20) 1冊
園芸書の出版
江戸時代は印刷出版業が普及した時代でもあります。園芸趣味の流行をうけ、需要を見込んで数多くの園芸書が次々と刊行されました。園芸書の刊行ラッシュによってさらに愛好者を増やし、植物の栽培や鑑賞を楽しむ人々が庶民層にまで広がってゆきました。
<展示資料>
『花壇綱目』(21-19) 3冊・『花譜』(25-116) 5冊・『群芳暦』(52-225) 1冊・『草木育種』(4-39) 4冊
『通賢花壇抄』(1-28) 1冊・『剪花翁伝』(31-65) 4冊
木の花から草花へ
園芸を楽しむ層の広がりは、対象として好まれる植物にも変化をもたらしました。それまでの椿や桜など広い庭を持てる人でなければ望めない樹木性のものから、長屋住まいなどでも楽しめる草花へと流行が移っていったのです。ことに好まれたのは桜草や撫子、百合、福寿草、花菖蒲、菊、朝顔などで、数多くの新しい品種を生み出しました。とりわけ菊と朝顔は熱心な愛好者たちの間で品評会が行われ、優れた花は法外な高値で取引されるなど、ヒートアップ気味の流行ぶりでした。
<展示資料>
『花纂』(48-55) 1冊・『画本柳樽』(104-32) 8冊・『花菖蒲培養法』(95-154) 1冊・『花菖蒲華鏡』(14-37) 1冊・『百合花譜』(子-85) 1冊・『草花図』(99-12) 1冊・『菊経』(3-61) 2冊・『菊花壇養種』(5-28) 1冊・『花壇養菊集』(3-11) 3冊・『朝皃水鏡』(101-27) 1冊・『花壇朝顔通』(25-21) 2冊・『商売百物語』(37-182ハ) 1冊
お江戸お花見スポット
草花の観賞は自ら育てるばかりではありません。園芸趣味に刺激された人々は、それまで上層階級の風流であった“お花見”を、大衆の行楽へと押し広げました。四季折々の自然に恵まれた日本では各地に花の名所があり、人々の目を喜ばせましたが、とりわけ江戸では「梅に始まり菊で終わる」と言われたお花見が生活の中の楽しみとして浸透し、月ごとに開花する花とその名所を記した花暦や歳時記が編まれ、時節ともなると多くの人出で賑わいました。
<展示資料>
『東都勝景一覧』(136-96) 2冊・『東都歳時記』(6-26) 5冊・『江戸名所図会』(35-61) 20冊・『江戸名所花暦』(140-169) 3冊・『江戸名所四十八景』(午-76) 1冊
奇品好み ~日本人の美意識~
園芸趣味が円熟した江戸時代も後期になると、ただ華麗なだけではあきたらなくなった人々が“奇品好み”という新たな流行をつくりだしました。ふつうでない姿かたちの花や葉に、面白さを見出したのです。たとえば変化咲きの朝顔など、一見何の花かわからないような珍奇な品種を生み出すことを競い合ったり、万年青(おもと)や松葉蘭など花さえ咲かない植物の葉や茎の斑(ふ)入りや矮(わい)性の様子を味わい深いものとして愛(め)でたり…。その高度な園芸技術と洗練された独特の美意識は、幕末に訪れた外国人を驚嘆させたといいます。
<展示資料>
『三都一朝』(27-59) 2冊・『草木奇品家雅見』(112-11) 3冊・『金生樹譜別録』(22-77) 3冊・『万年青図写』 2冊・『長生草』(119-125) 1冊・『松葉蘭譜』(2-56) 3冊・『庭園三百垣之図』(69-12) 3冊・『草木錦葉集』(35-60) 7冊
花を飾る ~生け花~
仏前の供花から始まり、室町時代には公家や武家の室礼(しつらい)として確立した生け花は、江戸時代に入ると園芸趣味の流行と機を一にするように、より自由なものに発展しました。書院などの大床に映える豪華で大ぶりの生け花「立花(りっか)」から、次第に一般の床の間などにも似合う、より大衆的な「投入(なげいれ)」が生み出され、解説書などの出版ともあいまって、広く人々の間に浸透してゆきました。生け花の浸透はまた、花の品種改良や生花市場の発展を促し、江戸時代日本の花文化をさらに深めていったのです。
<展示資料>
『立華正道集』(143-84) 3冊・『抛入花薄』(91-38) 2冊・『草樹養伝』(95-283) 1冊・『草木養活秘録』(165-23) 1冊・『千代田の大奥』(午-100) 1冊・『絵本青楼美人合』(126-110) 5冊