2004年8月28日(土)〜2004年10月24日(日)

江戸時代料理玉手箱

会期
2004年8月28日(土)〜2004年10月24日(日)
料金
入場無料
展示解説
9月4日(土)・10月9日(土)
古文書講座
9月18日(土)
「江戸時代のレシピを読んでみよう」

料理本の世界へようこそ


『料理献立集』

 現在の私たちは、書店で、あるいは家庭でいろいろなレシピ本と称する本を目にします。また、これ以外のさまざまなメディアから発せられるグルメ情報にも目を向け、耳を傾けその情報を享受しています。

 ところが、かつての料理本と言うものは、格式や流儀を重んじた包丁諸流の流儀本や有職故実本ばかりでした。庶民が目にすることなど皆無にふさわしかったのでしょう。もちろん、庶民が食を楽しむこともなかったのかもしれません。

 時は江戸時代、庶民が生活を謳歌するようになり、庶民を中心にした文化が花開きます。元禄文化・化政文化と後に称せられる時代です。その繁栄の一端には出版文化の繁栄もあります。その中の一分野として、今日のカラフルなレシピ本へとつながる料理本が出版され始めます。それは、次第に数を増し、実に多くの種類の料理本が出版されたのです。




 岩瀬文庫の蔵書の中にはこの「料理本」というものを実に多く所蔵しています。今回の展示では、その本の一端をご覧いただき、料理本が繰り広げる味わいの世界-スローフードの世界-へ入ってみましょう。そして、その本のレシピをもとに江戸時代の人々が味わった料理を、ぜひご家庭でも堪能していただければと思います。

江戸食文化の萌芽期 江戸時代初期の料理本

 江戸時代以前の料理本は、貴族や公家等のお抱え料理人の包丁諸流の流儀本や有職故実本ばかりで、また限られた者だけに受け継がれる奥義秘伝であった。江戸時代になると、世情が安定し、庶民にも料理に対する関心が高まってきたのであろうか、出版物として料理本が刊行されるようになる。

<展示資料>
『料理献立集』寛文11年版(86-46) 寛文12年版(119-383)・『料理物語』寛永20年版(140-118) 慶安2年版(119-158) 刊行年不明(9-57)・『合用日用料理抄』(40-31)・『羹学要道記』(96-130)・『当流節用料理大全』(33-77)・『料理山海郷』(13-5)・『八僊卓燕式記』(98-89)・『古今名物御前菓子秘伝抄』(108-118)


『羹学要道記』

『料理物語』寛永20年版




百珍ブーム到来

 天明2年、豆腐百珍が刊行された。作者は何必醇(曽谷学川)。当時は天明の大飢饉の時期ではあったものの、折からの出版ブームにのって大ベストセラーとなったという。その影響を受け、○○百珍や料理秘密箱シリーズなど多くの料理本の出版ラッシュとなる。

<展示資料>
『豆腐百珍・豆腐百珍続編』(103-140)・『海鰻百珍』(33-10)・『いも百珍』(25-17)・『諸国名産大根料理秘伝抄』(152-232)・『大根一色料理秘密箱』(165-250)・『万宝料理秘密箱前編』(96-43)・『鯛料理百珍秘密箱』(86-50)・『新著柚珍秘密箱』(83-56)


『豆腐百珍』

『万宝料理秘密箱』




江戸食文化の爛熟期 江戸時代後期の料理本

 江戸時代18世紀の文化・文政年間、「化政文化」と呼ばれる江戸の町人文化が華ひらく。おかげ参りと称する伊勢参拝の流行、世相をもじった川柳や狂歌がもてはやされ、十返舎一九に代表される滑稽本や上田秋成や滝沢馬琴らの読本、後に発禁本となる為永春永らの人情本などの一大出版ブームも起こる。この出版文化の隆盛の波を受け、料理本もおおいに出版された。初期の料理本との大きな違いは、『素人包丁』に代表されるような「読んで楽しい」という要素が加わったこと。その一方で、天明の大飢饉や天保の大飢饉の際に、いかに食していくべきかを問う救荒本も多く出版される。

<展示資料>
『名飯部類』(27-42)・『素人包丁』(35-20)・『新撰包丁梯』(67-54)・『鯨肉調味方』(24-89)・『日用助食竈の賑わい』(120-158)・『年中番菜録』(102-39)・『西洋料理通』(25-35)


『素人包丁』




有名店拝見

 江戸時代初期の江戸には料理屋といわれるものはなかったという。始めに誕生したのは、奈良茶飯を出す門前茶屋のようなものであったようだ(『西鶴置土産』による)。しかし、天明年間頃には、饗応の場としての料理茶屋が存在している(『武江年表』による)。そして次第に繁栄し、化政時代には華やかなりし食文化を演出することともなる。その代表格が「八百善」である。

<展示資料>
『江戸流行料理通』(9-52)・『江戸流行菓子話船橋』(13-41)・『虎屋伊織菓子名寄』(73-65)・『江戸買物独案内』(102-23)・『商人買物独案内』(34-21)


『江戸流行料理通』より八百善亭

『江戸流行菓子話船橋』より船橋屋




東海道名物めぐり―街道筋のうまいもん―

 江戸時代の旅人たちも、今の私たちと同じで、やっぱりうまいものには目がなく、街道筋の有名店で舌鼓をうっていたようだ。当時の旅人たちがちょっと一息しながら、名物を味わっている姿を連想してみよう。

<展示資料>
『江戸名所図会』(31-61-5/20)・『東海道名所図会』(22-46-2/6,4/6)・『近江名所図会』(99-69-2/4)・『東海道駅路真景』(7-7)


『東海道名所図会』 瀬戸染飯

『近江名所図会』 菜飯田楽




十返舎一九の料理本

 十返舎一九(1765~1831)は江戸時代後期の滑稽本作家として知られているが、食に関する書物も多い。また、一九の名を世に知らしめた代表作『道中膝栗毛』の中にも、弥次さん喜多さんが各地の名産品に舌鼓をうつ場面が登場する。

<展示資料>
『道中膝栗毛』(9-53)・『餅菓子艮席増補手製集』(119-12)・『餅菓子艮席増補手製集後編 手造酒法』(120-149)


『餅菓子艮席増補手製集』




文学作品に見る食べ物

 前述の一九の道中膝栗毛を遡ること約150年、浮世草子というジャンルを確立した井原西鶴は、その作品虫に食の描写を多く登場させた最初の「グルメ作家」であった。また、川柳や狂歌などにも食べ物が詠み込まれる。庶民の暮らしのなかで食の占める割合が多くなったことをあらわしているのであろうか。

<展示資料>
『西鶴文反古』(47-64)・『狂歌夜光珠』(25-20)・『商売百物語』(37-ハ182)・『根南志具佐』(124-87)


『西鶴文反古』


本企画展図録のご紹介

A4 24ページ 115g 500円
完売いたしました。