2019年7月06日(土)〜2019年10月06日(日)

〈『新編西尾市史 資料編1 考古』刊行記念〉考古遺物の美と謎(ミステリー)

 今春刊行された『新編西尾市史 資料編1 考古』では、373か所の遺跡と出土遺物を収載しています。本展では考古学の世界をより身近に感じていただこうと、収載された出土品のなかから「美・謎」をテーマに優品を選び、考古遺物の魅力を紹介します。文字には残されていない、先人たちのメッセージを受けとってください。

会期
2019年7月06日(土)〜2019年10月06日(日)
展示解説
7月6日(土)・8月24日(土) 午後1時30分~
2階企画展示室
西尾市史シンポジウム-縄文時代の西尾-
8月3日(土)午後2時~5時
講師:加藤 安信 氏(西尾市史編集委員/考古部会長)
テーマ「市史編さんと文化財保護」
講師:山田 康弘 氏(国立歴史民俗博物館教授)
テーマ「墓制からみた枯木宮貝塚(仮題)」
講師:川添 和暁 氏(愛知県埋蔵文化財センター)
テーマ「生業からみた枯木宮貝塚」
※予約不要・入場無料(ただし、資料代100円)
西尾市史講座
第1回7月21日(日)「西尾市史の新知見」
第2回8月18日(日)「弥生時代の西尾」
第3回9月8日(日)「中世の城館と村」
詳細はこちら。
会場:岩瀬文庫地階研修ホール
時間:各日午後1時30分~午後4時
定員:70名程度
(定員を超えた場合はモニター画面での聴講になることがあります)
写真から見た西尾市の発掘のあゆみ
会期:7月30日(火)~8月18日(日)
会場:岩瀬文庫1階ギャラリー



◆わずか数センチの石器-市内の旧石器時代-

 寄名山(きなやま)遺跡から見つかった旧石器時代のナイフ形石器は約2万年以上前のもので、市内で最も古い考古遺物です。ナイフ形石器は、石核から縦長の剥片を取り出したもので、側縁と基部に加工痕がみられ、茂呂(もろ)型に分類されます。ナイフ形石器は木の棒に装着し、として狩猟につかわれたと考えられています。
 枯木宮(かれきのみや)貝塚からは細石刃を剥ぎ取るための細石核が見つかっています。約1万5000年以上前の遺物で、剥片も見つかっていることから枯木宮貝塚周辺で石器の政策が行われていたと考えられます。
 いずれも市内では産出しないチャート製で、豊川流域以東からの石材を入手し、当地の人々がこの地で狩猟を行っていた姿が想像されます。わずか数センチの石器を作り出した当時の人々の加工技術の高さには驚かされます。


「ナイフ形石器」寄名山遺跡 後期旧石器時代

「細石核」枯木宮貝塚 後期旧石器時代 市指定文化財




◆空に願いを―鳥形木製品・鳥形鈕―

 大空を自由に飛び回る鳥は昔から人類の憧れで、鳥形土器・鳥形木製品・鳥形埴輪など、「鳥」を題材にした遺物が多くあります。市内の遺跡からも鳥に関連した資料が出土しています。
 住崎遺跡からは鳥形木製品が出土しています。部材は体部と翼部にわかれていて、2枚の板材を中央の孔で組み合わせ、飛翔する姿を現しています。体部は部材を補足することで頭部を表現していて、尾の部分は欠損しています。翼部は台形の板材で作られており、棒の先端に装着して使用されたと考えられます。弥生時代には鳥は穀霊(穀物に宿る精霊、稲魂)を運ぶ神聖な生き物であったと考えられていました。この木製品はムラはずれの湿地帯から発見され、農耕祭祀に使用された後に廃棄されたと推測されます。
 寄名山遺跡からは須恵器杯蓋の鳥形のつまみが出土しています。頭部のくちばしから胴部付近までが残っていますが、尻尾付近は欠損しています。頭部には両目、くちばしが表現されています。鳥が装飾された須恵器は通常は古墳から出土するため、葬送の際のお供え物を入れる容器であったと考えられます。古墳時代には鳥は神の使いであり、霊の象徴であったとされ、鳥の造形には死者の魂の安寧を願う当時の人々の想いが込められています。


「鳥形木製品」住崎遺跡 弥生時代終末期~古墳時代前期

「須恵器鳥形鈕」寄名山遺跡 古墳時代終末期




◆ヤマト政権から岡山の有力者に下賜された鏡-若宮1号墳の四獣形鏡-

 若宮1号墳は吉良町の岡山丘陵の西端に位置する南北約30㎝、東西約26㎝の円墳です。古墳周辺には明治時代に横須賀村長を務めた加藤利左衛門が営む「江陵園」と呼ばれた果樹園が広がっており、昭和30年代までは桜の名所として近隣住民に親しまれていました。
 古墳は大正2(1913)年に利左衛門らによって発掘され、貴重な副葬品が発見されました。現存する遺物には銅鏡・鉄剣・鉄鑿・鉋(やりがんな)があります。その後、正式な発掘調査は実施されていないので、埋葬施設の種類やこの他に副葬品があったのかどうかは確認されていません。銅鏡は4頭の獣が浮き彫りにされた国産の四獣形鏡で、ヤマト政権から岡山の豪族に送られた宝物と考えられています。古墳時代前期には、鏡は権威の象徴として特に重要視されていました。当時の人々は磨かれた鏡面にものが写る様子に霊威や魔除けの効力を信じていたのです。古墳時代の銅鏡は、市内では他に中之郷古墳でも出土しています。


「四獣形鏡」 古墳時代前期




◆中世武士愛用の逸品-善光寺沢南古墳出土の中国龍泉窯産青磁碗-

 市内の鎌倉・室町時代の集落跡からは主に無釉で無骨な山茶碗が出土しますが、稀に青味を帯びた美しい青磁片が見つかることがあります。青磁は13~15世紀に中国の龍泉窯(りゅうせんよう)で生産されたものが多く、入宋・日明貿易により日本に輸入されました。市内では唯一、ほぼ完形の青磁碗が善光寺沢南古墳の北側墳丘裾に築かれた土壙墓(どこうぼ・素掘りの墓)から出土しています。青磁碗は、外面に鎬(しのぎ)のある蓮弁文様が刻まれ、薄青い器面が目を引く美しい器です。墓の主が生前に愛用していたものが副葬されたのかもしれません。
 墓の主については墓標も史料もないためわかりませんが、その手掛かりが古墳の北側で鎌倉時代~室町時代にかけての中世墓群がみつかった善光寺沢遺跡から得られています。中世墓からは火葬骨を納めた蔵骨器が出土しています。蔵骨器は常滑窯産の壺や甕が大半を占めていますが、瀬戸窯や渥美窯産の壺も見つかっています。当時、火葬を行ったのは仏教を信仰した武士や僧侶などに限られるため、善光寺沢遺跡の墓地の造営には、中世に当地域を治めた東条吉良氏とその武士団が関係したと考えられています。


「青磁碗」善光寺沢南古墳 室町時代




さらに、以下の考古遺物の「美」についてご紹介します。

◆縄文時代の芸術-釜田貝塚の赤彩土器-
◆黒く輝く、八王子貝塚人の傑作-愛知県を代表する注口土器-
◆美しい内面装飾-八王子貝塚の浅鉢-
◆動物性素材のさまざまな利用-枯木宮貝塚・岡島遺跡の骨角器-
◆川の畔に埋められたムラの宝物-小島銅鐸-
◆原始アート-岡島遺跡・清水遺跡の絵画土器-
◆大型前方後円墳を囲んだ数百本の円筒埴輪-正法寺古墳の円筒埴輪-
◆飛鳥時代の兵士への褒美の品?-炭焼古墳の象嵌装大刀-
◆最新のファッションを纏った役人の墓?-西川原1号墳の帯金具-
◆川底より現れた猿投窯の名品-矢作古川江原橋下遺跡の灰釉長頸瓶-
◆西尾藩の上級武士の日常品-西尾城跡出土の陶磁器-








◆縄文時代人が祈りをこめた造形-八王子貝塚の土偶-

 「遮光器土偶」「ハート形土偶」などに代表される土偶は、縄文時代のなかでもよく知られた遺物です。非写実的で奇妙な表現のものも多くありますが、そのほとんどが女性を表現しています。八王子貝塚からは30点の土偶が見つかっていて、人形(ひとがた)と分銅形の2タイプに分けられます。
〈人形土偶〉
 本資料は頭部・右腕・左足が欠失していますが、全形をうかがうことができる資料です、乳房と思われる突起やおなかが大きく膨らんでいることから、妊婦の姿を模していると推定されます。右足には入れ墨と思われる刺突文が施されています。人形土偶は立体的に人を表現していて、本資料のように妊婦の姿を模ったものが多くみられます。
〈分銅形土偶〉
 西日本を中心に分布する板状土偶の一類型で、手足・頭部の造形を省略して、分銅形でヒトが表現されています。本資料は上半部に乳房と思われる2つの突起や、下半部には人形土偶に見られるような縦線(正中線)が見られます。
 八王子貝塚では異なる2つのタイプの土偶が製作されていますが、これらが同じ意図をもって祭祀の場で使用されたのかどうかはわかっていません。しかし、妊婦とみられる土偶が多いことから、縄文時代人の子孫繁栄への祈りが形となり表現されたものと推察されます。


「人形土偶」縄文時代後期 県指定文化財

「分銅形土偶」縄文時代後期 県指定文化財




さらに、以下の「謎」の数々をご紹介します。

◆縄文時代の仏具―西幡豆町採集の独鈷石-
◆非日常への情熱-石棒・石刀-
◆縄文時代人・弥生時代人はおしゃれだった?-枯木宮貝塚・清水遺跡出土の土偶-
◆土で作られた銅鐸-銅鐸型土製品-
◆市内最大の横穴式石室の被葬者は誰?-とうてい山古墳の副葬品-



本企画展図録のご紹介

A4 24ページ 115g 500円
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