2015年1月31日(土)〜2015年4月05日(日)

こんな本があった!12

~岩瀬文庫平成悉皆調査中間報告展12~

会期
2015年1月31日(土)〜2015年4月05日(日)
料金
入場無料
展示解説
2月14日(土)
連続講座
2月1日(日)
第3回「地域史と地籍図」
金田 章裕氏(京都大学名誉教授・西尾市史編集委員長)
特別講座
3月15日(日)
「今年度の調査からわかったこと Vol.12」
塩村 耕氏(名古屋大学大学院教授/岩瀬文庫資料調査会会長)

 はじめに
 ~書誌データベースより統合的データベースへ

 岩瀬文庫には、孤本(外の文庫図書館には所蔵されない一点物の珍書)が妙に多いことに気づきます。それは、文庫の集書方針として、重複本を厳密に排除してくれたおかげなのです。その結果、書籍の数が集まるにつれて、世にある本だけでは収集が進まなくなり、自ずから珍書を求める必要に迫られます。そのような岩瀬弥助の難しい要求に応えるために、東西の古書店主たちが稀書を探索して積極的に協力してくれたのでした。もちろん、その背景には弥助の財力があったからですが、それだけではこうはいきません。古書店主を動かす弥助の熱意と、良い物を引き寄せる収集運とが尋常でなかったことを物語っているように感じられます。
 そのような一点物の資料は、必然的にさまざまな著作者の自筆本が多くなります。そのため、岩瀬文庫は、多彩な先人たちの筆蹟を知る上でも、稀有な宝庫となっているのです。悉皆調査の結果、存在の判明したそれらの資料群を活用しない手はありませんね。
 旧冬十二月より、一つの試みとして、岩瀬文庫書誌データベースにおいて、重要な自筆資料の一部に、筆蹟サンプルの画像データとのリンクを開始しました。今後、さまざまな筆蹟資料を照合する際に、岩瀬文庫は大きな威力を発揮してくれることでしょう。
 あわせて、重要資料の全文テキストとのリンクも開始しました。これは、くずし字が苦手な人の読書を支援する目的のほかに、将来必ずや整備されるべき、日本語の全古典籍の全文テキストの集積という大事業への貢献をも目指しています。なお、この全文テキストのデータ作りには、岩瀬文庫資料調査会や「名古屋古書の会」のボランティアの皆さんの協力を得ました。
 これらはいまだささやかな試みですが、岩瀬文庫で始まった統合的書誌データベースが、将来、日本の人文学の学術基盤の向上に貢献できることを願っています。
 岩瀬文庫平成悉皆調査も終盤にさしかかりました。本年も、「こんな本があった!」を紹介する中間報告展を、岩瀬文庫を守って下さる市民の皆さんへの感謝を込めつつ催します。

 平成27年正月           悉皆調査責任者
                  名古屋大学文学研究科(日本文学)
                  塩村 耕(しおむら こう)

Ⅰ.〈小特集〉三河と尾張の古書 

 岩瀬弥助は広く日本全国の地誌を集めましたが、やはり地元である愛知県に関連する資料には手厚く、中にはこんな珍しいものも含まれていました。

[1]『今昔参河奇談』(75函ハ28号)寺津八幡社(現・西尾市寺津町)の神主で国学者、渡辺政香(まさか/1776~1840)が編んだ三河にまつわる奇談集。
[2]『参河人物誌後編』(143函21号)これも渡辺政香が編纂に取り組んだ三河人の名鑑。未完。
[3]『三河東加茂郡地誌材料』(153函95号) 西三河北部、愛知県東加茂郡の官撰地誌の未定草稿本
[4]『舞上八幡宮御境内略図』(丑函101号) 舞上八幡宮(現・岡崎市舞木町、山中八幡宮)を東海道側の北東より俯瞰した一枚刷絵図。
[5]『東海道赤坂物語』(152函199号) 東海道三州赤坂宿近く、宮路山辺であった武士と虚無僧との果し合い一件を扱う長編の実録読本。
[6]『尾張方言』(147函78号) 尾張の方言語彙を類聚した書。各語に語義や京言葉との違いを解説する。
[7]『戸山別荘絵巻』(午函64号) 江戸西郊の戸山ヶ原(現・新宿区)にあった宏壮な尾張藩下屋敷(戸山荘)を描いた長大な絵巻。
[8]『尾濃御領分御代官所支配分図』(丑函40号) 美濃・尾張・三河(一部)の尾張名古屋藩領を中心とした国絵図。


『今昔三河奇談』

『舞上八幡宮御境内略図』




『尾張方言』

『戸山別荘絵巻』




Ⅱ.〈小特集〉絵巻は楽し

 岩瀬文庫では、巻子本や折本、帖仕立てなど特殊形態資料の多くは、函番号末尾の子函~酉函に一括して配架されます。大量にあるそれらの中から、こんな楽しい絵巻物類が出てきました。

[9]『人間一代戯画』(午函46号) 登場人物は全て骸骨の風貌で、しかも表情があるという独特の画風で描いた一人の男の一代記。
[10]『寿留嘉土産』(午函30号) 駿府町奉行として着任した幕臣の貴志孫太夫忠美が、任地駿府(現・静岡市)周辺の風景を写生した彩色画巻。
[11]『実見画録』(巳函64号) 嘉永元年(1848)より明治4年まで、江戸東京市中で起きた出来事や風俗を実見に基づいて写生し、解説文を付した記録書。
[12]『行列図』(辰函69号) 徳川家に関連する某貴人の行列を写生的に描いた絵巻。篤姫(天璋院)一行か。
[13]『徳川時代四時風俗』(午函61号) 近世後期の江戸における年中の市井風俗を活写した絵巻。春夏秋冬各1巻。
[14]『隅田川両岸一覧』(辰函41号) 隅田川の水上より東岸と西岸をパノラマ風に順次描いた絵巻。
[15]『異本病草紙』(辰函15号) 種々の奇病を描いた中世の風俗絵巻の一模本。国宝として有名な『病草紙』とは別内容で、「異本病草紙」と呼ばれる。


『異本病草紙』

『徳川時代四時風俗』




Ⅲ.続出する珍奇本

 今年も登場する珍奇本の数々です。

[16]『日光道中之図』(午函9号) 江戸より日光の神橋に至る日光御成道の道中絵図。綱吉将軍の「幻の日光社参」のために作製されたもの。
[17]『足利本金沢本摹刻題跋』(辰函74号) 足利学校及び紅葉山文庫所蔵の金沢文庫旧蔵本のうち、漢籍の古鈔本・古版本の奥書と題字の書影を模刻した書誌学書。
[18]『駿府記』(135函37号) 慶長16年(1611)より元和元年(慶長20年)まで、駿府城に住した大御所、徳川家康の動向を中心に記した漢文体の日記。
[19]『朝鮮人宿寺東本願寺并塔頭所々御普請御入用帳』(148函38号) 正徳元年(1711)度の朝鮮通信使来朝に際し、宿舎となった東本願寺(浅草別院)の経費を列挙した詳細な帳面。
[20]『伊勢物語』(卯函52号) 伊勢物語の写本。幕臣の鈴木重規(1664~1729)が和歌の師の烏丸家秘本を、1字も違わず行移りもそのままに転写した本。
[21]『三十三間堂絵図』(寅函271号) 京の三十三間堂(蓮華王院)で通し矢を行う際の、矢場周辺の設営を詳細に描いた絵図面。
[22]『藤波記』(153函86号) 明暦元年(1655)7月、旗本の飯塚正重(1629~70)が官命により江戸より大坂へ上った旅の詩歌入り和文紀行。
[23]『檀森斎石譜』(子函5号) 諸国の奇岩奇石を写した南画風の画譜の版本。通常とは異なる印刷法(焼いた粘土板の上に泥で記し、再び焼いて搨模したもの)で描画。
[24]『辛酉仗議記』(辰函9号) 元応3年(1321)辛酉2月23日に行われた辛酉革命と改元の仗議についての詳細な記録書
[25]『歴史画考』(卯函73号) 神代から奈良時代まで、歴代天皇の重要事件を描いた略画に簡略な注記を添える。柳下亭種員(1807~58)自筆自画の草稿本。
[26]『諸家奇石図』(辰函19号) 奇石類の彩色入り図譜。筆者は加賀大聖寺藩第8代藩主の前田利物(としたね)と推定される。
[27]『奥勤楽すご六』(巳函27号の6) 武家屋敷の奥勤めの女性たちが楽しみとした遊びなどを描いた絵双六。奥女中の生活をよく観察している。


『三十三間堂絵図』

『歴史画考』


『諸国奇石図』


本企画展図録のご紹介

A4 22ページ 100g 500円
図録のご購入方法は刊行物・グッズ/図録のページをご覧ください