稲亭物怪図説

いなていもののけずせつ153-1131冊 江戸時代後期

 時は寛延2(1749)年4月。三次(みよし)藩の稲生武太夫と三井権八は「百物語」(暗闇の中で百本のろうそくに火をつけ、集まった人がそれぞれ1つ怪談話をするごとにろうそくを1本消してゆき、最後の1本が消えると童子に妖怪があらわれるという肝試し)をきっかけに、30日間にわたって様々な怪奇現象に遭遇します。




 部屋中にわき出す黒い霧、ひとりでに動く塩俵ややすり鉢。巨大な顔と手だけの妖怪、跳ね回る串刺しの生首、知人の頭からはい出る赤子の姿の妖怪・・・。





 日替わりで訪れるさまざまな怪異にも、豪胆な武太夫は知らぬ顔で取り合いません。とうとう30日目には山本五郎左衛門と名乗る魔王が現れ、武太夫の勇気をたたえ、手下の魔物たちと飛び去りました。




 このバラエティに富んだ怪奇譚は多くの人の興味と恐怖心(?)を誘ったらしく、本人自筆の『三次実録物語』をはじめ、多くの書物や絵巻・掛軸に表されました。今も昔もひとときの涼しさを与えてくれる怪談話は夏の風物詩です。