鉄道旅行案内

てつどうりょこうあんない163-372冊 大正10年刊

  “汽笛一声新橋を…”の鉄道開業から五十年目にあたる大正十年、鉄道省から『鉄道旅行案内』と銘打たれた横長の小型冊子が刊行されました。運賃や直営ホテル紹介などの「国有鉄道営業案内」に始まり、各駅ごとにその土地の解説や乗り換え案内、おススメの遊覧コースなどの情報が手際よくまとめられています。


西尾鉄道沿線

 たとえばこんな具合です。「西尾鉄道沿線、この鉄道は岡崎新駅から西尾を経て吉良吉田までの十四哩(マイル)一分と西尾からわかれて港前(平坂)に至る二哩四分。賃金、岡崎新駅から三等西尾へ四十銭、港前へ五十二銭、吉良吉田へ六十八銭。二等五割増である。西尾の近くには八ツ面山の景勝地あり。上横須賀駅の近くには吉良氏累代の墓のある華蔵寺があり[中略]この所は吉良氏の所領でその恩恵を蒙ること厚く、今に忠臣蔵の芝居のできぬ所である」また、ふんだんに掲載された美しいカラーの挿絵や、沿線の名所などを盛り込んだ路線図が旅心を誘います。

 挿絵は、名所案内図や鳥瞰図(ちょうかんず)で評判をとり「大正の広重」と称された吉田初三郎が描いています。




西尾~伊勢の名物


 大正後期から昭和初期にかけて、鉄道網の発達にともない、都市部の中産階級を中心に旅行がブームになりました。そうした時代の風潮と、本自体のセンスの良さとあいまって、『鉄道旅行案内』は大好評を博し、大正13年には早くも改訂版が出されました。現代でも数多く見られる、旅行ガイドブック類の大先輩のようなこの本は、現代でも多くのファンに支持されています。




三河湾周辺路線図


 岩瀬文庫では大正10年版と13年改訂版を一組にして収蔵しています。西尾鉄道の初代社長でもあった文庫の創設者・岩瀬弥助のもとに、鉄道省から寄贈されたものです。