本草図説

ほんぞうずせつ45-11195冊


 本草とは古代中国の薬草学に端を発する学問で、のちに他の自然産物へも対象が広がり、形態や性質などを研究する博物学へと発展しました。
 『本草図説』は、江戸下目黒の本草家・高木(たかぎ)春山(しゅんざん)(?~1852)が、20年以上の歳月と莫大な私財を注いで作成した、全一九五巻にも及ぶ、質、量ともに最大級の“江戸時代カラー博物図鑑”です。魚介類から鳥、獣、虫、植物、鉱物、人類や自然現象まで、当時の自然科学が扱う全ての分野を網羅する無数の彩色図を描き、名称や解説が添えられています。



 時は幕末、春山は日本の国産振興の必要性を痛感し、基礎データとして「何が日本でとれて、とれないか」を把握することが肝心である、それには一目でそのモノがわかる正確な彩色図譜が欠かせない、と考え、『本草図説』の作成を決意しました。


 春山が『本草図説』作成に取り組む姿を、孫の高木正年は序文に寄せてこう記しています。「崇山の険に攀(よ)じ、幽谷の深きに探り、遠洋の危うきを航り、孤島の波浪を凌ぎ、江河をさかのぼり、荒野に馳せ、夙夜(早朝から深夜まで)孜孜(しし)として(務め励む)、家人の産業(なりわい)を事とせず、敢えて世人の譏議(きぎ、そしり)を顧みず、万金を擲ち、拮据(きっきょ、苦労すること)二十余年、まさに全壁を観んとす」







 春山が描いた精緻な肉筆画は魅力的な生彩に溢れ、圧倒的な分量とも相まって他を凌駕します。また古今東西の書物や的確な観察に基づく解説文からは、日本のナチュラルヒストリーの軌跡をたどれるばかりでなく、江戸時代人の豊かで真摯な自然観がいきいきと今によみがえります。
 『本草図説』から飛び出したオニヤンマ・みんみん蝉・熊谷草(くまがいそう)・鯉・トド・蛸(たこ)・猿・兎・ヘゴ・キリンたちが、岩瀬文庫の柱や壁であなたのお越しを待っています。逢いに来てくださいね。