諸国奇石図

しょこくきせきず巳-81冊

 享保7(1722)8月14日、三河国幡豆郡吉良庄(きらのしょう)富好新田(とみよししんでん)の堤防が嵐で決壊しました。里人が駆けつけると、甲羅(こうら)の幅2mを超える大蟹(おおがに)が、堤に穴をあけて棲みついており、そこから海水が噴き出したせいだとわかりました。熊手を手に皆で追い回したところ、大蟹は人の両手ほどの大きなハサミを落とし、海中へと逃げましたが、その後もたびたび姿を見せたといいます。







 本書は、日本各地の有名な不思議な石や洞穴などを集めて絵入りで紹介するもので、この大蟹の話を含めた半分ほどは、寛保3(1743)年に版行された菊岡沾涼(きくおかせんりょう)の『諸国里人談(しょこくりじんだん)』奇石部と同じ文章です。富好新田のこの事件は、現在では地元でもほとんど知られていませんが、江戸時代の奇談愛好者ではちょっと知られた話だったようです。


摂津国東生郡の蛙石(かわずいし)。鳥や虫がとまると食虫植物のように二つに割れ、食べてしまうという。