2014年1月25日(土)〜2014年3月30日(日)

こんな本があった!

~岩瀬文庫平成悉皆調査中間報告展11~

◆ごあいさつ◆
 103年前の明治44年8月、夏目漱石は和歌山市で「現代日本の開化」という講演を行っています。その中で、「西洋の開化は内発的であって、日本の現代の開化は外発的である」とし、「吾々の開化が機械的に変化を余儀なくされるためにただ上皮を滑って行き、また滑るまいと思って踏張るために神経衰弱になるとすれば、どうも日本人は気の毒と言わんか憐れと言わんか、誠に言語道断の窮状に陥ったものであります」と、日本のゆがんだ近代化を憂えています。そして、驚いたことに漱石先生は、何の処方箋も示さず、ただただ嘆いておられるばかりなのです。そのことは却って、彼の危機意識の高さを物語っているように思われます。

 さて、漱石の提起した問題は、年を経て霧消したのでしょうか。答えは否です。それどころかより深刻化し、その後の日本を襲う1945年の未曽有の国難も、2011年の大災厄(人災の方です)も、その延長線上にあるのではないでしょうか。
 漱石先生と同い年だった岩瀬弥助は、そんな問題について、腰を落として考えるための膨大な材料をわれわれに残してくれました。たとえば、失われた封建の記憶を紙の上に残してくれる地誌書や地図の類が、特に岩瀬文庫に豊富に収蔵されるのは、偶然ではありません。岩瀬文庫は、日本に本来あった「根っこ」みたいなものを取り戻すための場でもあるのです。
 ところで、岩瀬文庫は近年、高校生が書物文化について実地に学ぶ、校外学習の場として活用されつつあります。はじめて江戸時代の古書に手を触れ、臭いをかぎ、さし絵をじっくりと見、文字を読んでみる。そんな体験は若者たちの柔軟な心に何かを響かせるようで、事後に立派な感想文を寄せてくれることがしばしばです。彼らの将来が楽しみですね。泉下の岩瀬弥助翁もきっと目を細めておられることでしょう。 
本年も、「こんな本があった!」を紹介する中間報告展を、岩瀬文庫を守って下さる市民の皆さんへの感謝を込めつつ催します。

平成26年正月           悉皆調査責任者
                 名古屋大学文学研究科(日本文学)
                 塩村 耕(しおむら こう)

会期
2014年1月25日(土)〜2014年3月30日(日)
料金
入場無料
展示解説
2月22日(土)
特別講座
3月15日(土)
「今年度の調査からわかったこと Vol.11」
塩村 耕氏(名古屋大学大学院教授/岩瀬文庫資料調査会会長)

Ⅰ.〈小特集〉尾張の古書 

 岩瀬弥助は広く全国から古書を集めていますが、中でも近隣の大都市である名古屋の古書店から仕入れることが多かったようです。それにともない、名古屋周辺の資料が充実しており、その中にこんな珍しいものもありました。

[1]『東海道五十三駅勝景』(寅函313号)東海道の道中風景鳥瞰図を描いた続物の錦絵「東海道五十三駅勝景」のうち尾張の部。
[2]『尾張国解文』(158函84号)歴史の教科書にも載る有名な平安時代の文書を、文和2年(1353)に転写した古写本の写し。
[3]『〈尾張国春日井郡〉田幡志』(152函159号)尾張春日井郡田幡村(現・名古屋市北区田幡・金城町辺)のローカルな地誌。
[4]『名府人名譜』(162函221号)江戸期に学問や文藝、藝能で活躍した名古屋の人物誌。
[参考]『明倫堂略史』(162函192号)名古屋藩の藩校明倫堂の沿革史。
[5]『路鑑』(子函372号)名古屋城下町のうち武家町の屋敷割りを記した詳細な区分地図集で、早い時代の状況を知る貴重な図。
[6]『懐宝尾張国郡全図』(138函19号)名古屋藩は領内の地図の刊行を許さなかった。これは江戸時代に刊行された珍しい尾張の国絵図。
[7]『たひのすさひ』(丑函201号)戦前名古屋の上流婦人、高松年子と糟谷常子による和歌入り絵入りの紀行文集。




Ⅱ.〈小特集〉目録は楽し

 モノを集めることは人間の本質的行動の一つで、それにともなって、しばしば目録が作られます。そういった展観目録や蔵書目録を通して、わたしたちは収集の全貌をうかがい、眼前に思い浮かべることができるのです。

[8]『閣龍世界博覧会美術品画譜』(52函231号)1893年開催、コロンブス世界博覧会(シカゴ万国博覧会)に出品された書画彫刻工藝品等の彩色刷画譜。
[9]『博物図説』(寅函232号)明治5年3月より東京湯島聖堂大成殿に於て、文部省博物館が催した日本初の博覧会に出された展示品の解説刷物らしい。
[10]『大博覧会品物目録』(寅函5号)明治8年、京都御所を会場にして催された大博覧会(京都博覧会)の出品目録。
[11]『八幡書庫記』(113函1号)寺津八幡宮(現・西尾市寺津町)の神職渡辺政香が、神社に文庫を設置する志を記した漢文「八幡書庫記」に蔵書目録を付す。
[12]『渡辺蔵書目録』(124函ロ128号)これも寺津八幡宮神主、渡辺家の蔵書目録。
[13]『山本読書室蔵書目録』(141函8号)京の本草の家、山本読書室の蔵書目録。岩瀬文庫に吸収された重要文庫の双璧の一つ。
[14]『柳原家旧蔵本目録』(子函378号)京の公家、柳原家の蔵書目録。これも岩瀬文庫に吸収された重要文庫の双璧。
[15]『展観画録』(119函23号)文化4年(1807)9月、円山応挙の十三回忌追善のため、円山也阿弥で盛大に催された書画展の展観目録。
[16]『畸人伝中書画展観目録』(104函77号)江戸期のベストセラーの一つ、『近世畸人伝』に載る人物による書画を集めた展示会の展観目録小冊子。
[参考]『畸人伝中書画展観目録』(107函72号)明治8年11月、京寺町透玄寺で催された展観目録。初度の展観より年数を隔てて開催されたもの。




Ⅲ.続出する珍奇本

 岩瀬弥助には資金力だけでなく、良いモノを引き寄せる、一種独特のクジ運みたいな才能があったのではないでしょうか。岩瀬文庫は珍奇本の尽きせぬ泉です。

[17]『大湊一覧』(寅函226号) 大坂湾上空より大坂、住吉、堺を俯瞰した鳥瞰絵図。出来がすばらしい。
[18]『〈滑稽小説〉秘密機関』(160函37号) 明治期のジャーナリストで作家、福地桜痴の風刺的な政治小説の自筆原稿。『桜痴全集』に未収録。
[19]『周易伝義附録』(卯函48号) 中国元代、至正2年(1342)に刊行された古版本の稀書。
[20]『東本願寺の絵図』(子函315号) 京都の東本願寺の諸堂と周辺を描いた古版の一枚刷。伝本稀れ。
[21]『修徳院書籍冊数改書並由来書』(丑函15号) 稀代の愛書家大名、越後新発田藩第九代溝口直侯による筆記。
[22]『山王真形』(丑函28号) 四季折々に変化する富士山を繊細に描いた絵図集。
[23]『和歌会要』(子函382号) 宮中での和歌御会の作法に関する資料集で、短冊の折り方や綴じ方までが具体的にわかる貴重な資料。
[24]『書画落款臨模帖』(寅函112号) 名家の落款や古書画、鑑定書などの模写を収めた帖。贋作の制作や流通への関与を疑わせる。
[25]『諸国羽子板図』(寅函83号) 諸国の羽子板を模写した図譜。筆致・色彩とも極く精密に原本を復元し、出来の良い民画を多く含む。
[26]『足利尊氏願経』(卯函6号) 文和3年(1354)足利尊氏は諸寺の僧に一切経五千余巻を書写させ、等持院に奉納した。これはその中の一巻。
[27]『〈新板〉東叡山之図』(子函46号) 江戸上野の東叡山寛永寺境内の周辺を描いた古版の一枚刷。伝本稀れ。
[28]『荒歳流民救恤図』(丑函9号) 天保飢饉の際、渡辺崋山が行なった窮民施療活動の様子を自ら描いた絵巻の良質な複製。
[29]『けむり草』(卯函45号) 愛煙家の残したタバコ雑記。前半は本居宣長の愛煙随筆『おもひ草』自筆本の写し。後半はタバコとキセルについての考証随筆。


本企画展図録のご紹介

A4 22ページ 110g 500円
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