現在、岩瀬文庫の蔵書目録は『岩瀬文庫図書目録』(昭和11年)を使用しています (現在は完売に付き、一般頒布を行っておりません。お近くの県立図書館、大学図書館などでご覧ください)。
 この『岩瀬文庫図書目録』は、当文庫の図書目録としては第3版にあたります。財団法人時代の昭和11年の刊行ですが、すでに岩瀬文庫の蔵書のほぼ全てを網羅した完成度の高いもので、再刷を繰り返して使用されてきました。その構造の特徴や成り立ちについてご紹介しましょう。

1. 分類法

 『岩瀬文庫図書目録』には、蔵書が内容別に分類して記載されています。 現代の図書館では一般的に、0:総記、1:宗教・哲学、2:歴史・地理…という様にNDC分類(10進分類)によって本が分類されます。しかし岩瀬文庫では八門分類という分類方法がとられています。これは『増訂帝国図書館和漢書分類目録』(明治33年刊行)をモデルにしていることがわかっています(『西尾市岩瀬文庫の沿革と目録構造』都守淳夫,1999,西尾市教育委員会)。   
 八門分類とは、

  • 第1門 神書及宗教
  • 第2門 哲学及教育
  • 第3門 文学及語学
  • 第4門 歴史・伝記・地誌・紀行
  • 第5門 国家・法律・経済・財政・社会・統計学
  • 第6門 数学・理学・医学
  • 第7門 工学・兵事・美術・諸芸及産業
  • 第8門 叢書・随筆・雑書・雑誌・新聞紙

という分類の仕方です。そして岩瀬文庫は独自にもう一つの門、第9門 三州史料を設けています。これは第1門から第8門までに分類された中の、三河地方に関連する蔵書を再び記載したもので、創立者 である岩瀬弥助の「地元の人々の教育文化の発展に役立てたい」という願いが込められたものです。

2. 函番号  


新書庫

 目録には、この分類に従って資料名・冊数・形態・筆者・出版(著作)年・函番号が記され、岩瀬文庫の蔵書はこの函番号を基本として管理されています。 蔵書は、普通の図書館のように内容別に配架されているのではなく、本の大きさや形態別に並べられ、その配架順に従って函番号(かんばんごう)という独特の整理番号がつけられています。この函番号は書庫内での本の住所のようなもので、本棚の番号である函号と、並び順をあらわす番号を組み合わせて成り立っています。岩瀬文庫では8万冊余りの蔵書すべてをこの函番号をよすがとして出納しています。この配架の優れた点は、一つには大きさや形をそろえることで、限られたスペースを有効に活用できる点です。


枕草子 函番号

 もう一つは本の出納が早くできる点です。岩瀬文庫の蔵書のほとんどは和装本です。和紙を糸で綴じた本や、巻子(かんす/巻物のこと)、折り畳んであるもの(絵図類等)には背表紙がありません。もし内容別に配架してあったら、『枕草子』を1,000冊を超える国文学書の中から探し出すのは至難の業でしょう。岩瀬文庫では函番号順にならんでいるおかげで、すぐに目的の1冊にたどりつけるのです。


3. 目録をつくったのは


 さらに特筆すべき点に、この目録と分類・配架システムが文庫創設者である岩瀬弥助自身によって作られたことが挙げられます。岩瀬文庫の図書目録の第1版(『初版目録』)が刊行されたのは、開館当初の明治41年5月6日のことです。すでに3,682件の蔵書を所収し、昭和11年版と同じ八門分類法が用いられ、このシステムが文庫開館の準備段階から使用されていたことがわかります。翌年10月28日には1,424件が所収された第2版(『初版増加目録』)が出版されました。
 図書が購入されると、弥助やその右腕であった司書の高木習吉らが一冊一冊、丹念に目を通し、幾種類もの伝票や整理カード、冊子目録を作成し、体系的合理的に管理されました。こうした手順を記した冊子『岩瀬文庫図書カード整理法』には、「・・・当文庫主(=弥助)が独特の考案で作り備へ置くことになったのです・・・(「図書函架簿」)」とあります。

 弥助の死後に財団法人となった岩瀬文庫を支えた高木習吉は、このシステムを継承し 、さらに目録を充実させ、昭和11年には第3版『岩瀬文庫図書目録』が出版されました。弥助と習吉たちのこうした地道な努力と的確な蔵書管理によって、岩瀬文庫の8万冊を超える本には重複するものが殆ど無く、また、あらゆる分野の良書を片寄りなく収集することが可能となったのです。


図書原帳

岩瀬文庫図書目録 第一版

岩瀬文庫図書目録 第二版