参陽松平御伝記

さんようまつだいらごでんき75-151冊


 本書は、江戸牛込の系譜研究家、田畑喜右衛門吉正(1770~1846)編纂による松平氏の系譜です。松平氏は、清和源氏の末裔である世良田親氏(せらたちかうじ)が遊行僧・徳阿弥(とくあみ)となって三河国松平郷へ至り、郷主の家へ婿入りしたことに始まるとされています。その子孫である松平元康(徳川家康)が江戸幕府を開いたのはみなさんご存知のとおり。各地へ広がった分家は十八松平と呼ばれ、のち西尾藩主となった大給(おぎゅう)松平家もその一つです。

 本書の巻末に私立岩瀬文庫の開館間もない明治42年の旧西尾藩主であった大給松平家当主の松平乗承(のりつぐ)子爵による自筆奥書があります。「この本は田畑喜右衛門の著書である。さる明治17年8月(東京から)郷里三河国幡豆郡西尾に行った際に賀茂郡長田中正幅からこの珍しい本のことを聞き、いずれ貸してもらう約束をして戻った。著者について興味を持ったので、当時勤めていた修史館(明治政府が太政官正院においた歴史史料編纂のための機関。のち帝国大学へ移管)の高麗環(こまたまき)に質問すると詳しく教えてくれた。家令の笠原光雄を通じて田中へこれを知らせたところ、田中は非常に喜んで本の写しを作成した送ってきた。乗承はこの書をたいへん珍しく貴重なものと思うが、未だ岩瀬文庫には所蔵されていないとのことなので、この度新たに写しを作らせて岩瀬文庫に寄附するものである」。

 松平乗承は(1851~1929)は日本赤十字運動の中心人物として活躍し、また旧藩士たちとともに旧領地西尾の教育や歴史研究にも力を注ぎました。岩瀬文庫の草創期、西尾の教育文化の拠点としての岩瀬文庫に大きな期待を寄せた西尾の文化人たちは、このように本を積極的に寄贈して、その充実のために協力したのでした。




繊細な筆遣いで書かれた奥書